Mayekawa

50年先も旨いまぐろを届けるために――。
まぐろ専門問屋「三崎恵水産」と考えた“まぐろ”のサステナビリティ

まぐろ専門の卸問屋として長い歴史を持つ神奈川県三浦市の株式会社三崎恵水産様は、まぐろ事業を持続可能なものとするため、消費エネルギーの改善や環境負荷低減に力を入れています。その一環として、設備のノンフロン化を実現するために導入いただいたのが、マエカワの自然冷媒機器、空気冷凍システム「PascalAir(パスカルエア)」とCO₂ コンデンシングユニット「COPEL」です。

自社の屋上に太陽光パネルを設置し、「100%自社で電力をまかなう」ことを目標に掲げるなど、環境負荷低減に繋がるエネルギー利用を追求する三崎恵水産様が、パートナーとしてマエカワを選んだ経緯や課題、そして稼働開始後に感じたことについて、同社代表取締役社長の石橋匡光さんにお話を伺いました。

お話を伺ったメンバー

  • 石橋 匡光(いしばし・まさみつ)さん

    株式会社 三崎恵水産 代表取締役社長

3.11の震災でエネルギー問題に危機感を持ち、
マエカワの自然冷媒に興味を持った

まずは、三崎恵水産の事業内容を教えてください。

石橋:三崎恵水産は、日本でも有数の冷凍まぐろの水揚げ量を誇る神奈川県三浦市三崎港に会社を構えるまぐろ問屋です。1986年の設立から約40年間、まぐろを目利きして買い付け、自社の超低温冷凍庫で管理し、高品質の三崎まぐろを飲食店に提供してきました。弊社は省エネルギー・環境負荷低減に注力し、持続可能なまぐろ事業を未来につなぐことに特に注力しています。

省エネルギー・環境負荷低減に注力されたきっかけはあったのでしょうか?

石橋:やはり2011年の東日本大震災ですね。計画停電により電気が使えない時間ができて、このときは冷凍庫も開けられないし、電動ノコギリも動かせない……。これは衝撃でした。われわれの産業がエネルギーに依存していることに気づいたんです。

考えてみれば、まぐろ産業は地球の裏側までまぐろを捕りに行き、鮮度を保つために多くの エネルギーを使用して冷凍するなど、とにかく膨大なエネルギーを消費します。「この先もまぐろ産業を続けるためには、何かやり方を考える必要があるのでは?」と大きな危機感を抱きました。この構造を変えていかなければ未来にはまぐろ産業がなくなってしまう……。そして、第一歩のアクションとして2012年に工場の屋根に10kWのソーラーパネルを設置しました。2023年現在では580枚、200kWの太陽光発電システムを導入し、計算上使用電力の約20%を自社で賄うことができています。

また、2019年に台風19号で三浦半島が大きな被害を受けたのは、地球環境を考える一因となりましたね。温暖化による海水温上昇、それによる急激な気候の変化……と、海を身近に感じ、水産ビジネスをしているからこそ、強く危機を感じました。海水温が1℃上がるだけでまぐろの品質も変わってくるんです。これは、水産業においては切っても切り離せない問題ですね。

三崎恵水産は三浦半島の南端にあたる城ヶ島にあり、海の変化を常に肌で感じている

そうした環境問題やエネルギーへの課題があった中で、マエカワの機器を導入いただいたのはなぜでしょうか?

石橋:マエカワの自然冷媒機器「PascalAir」、「COPEL」の導入が環境負荷の大きな軽減につながることに期待したためです。まぐろの品質を維持できる-50℃以下の超低温冷却設備はフロン系冷媒を使ったものが多いのですが、モントリオール議定書などの国際ルールにより、従来のフロン系冷媒から、より環境負荷の低いものへと転換することが迫られていました。入替の検討自体は3~4年前から始めていましたが、修理しながら使い続けることもエコロジーの一つだと考えていましたし、買い替えには膨大なコストがかかります。

今までの冷凍機はR22(フロン冷媒)をつかったものでした。まだまだ使えるし、社内からは「変えなくてもいいだろう」という声もあがっていました。国の補助金※1を使ったり、横浜銀行とりそな銀行の2行でグリーンローン※2を組んだりして、-55℃の大型冷蔵室用に「PascalAir」を2台、-35℃の小型冷蔵室用に「COPEL」1台の導入に踏み切りましたが、非常に勇気のいる投資でした。

※1 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(脱フロン・低炭素社会の早期実現のための省エネルギー型自然冷媒機器導入加速化事業)

※2 企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために用いる融資のこと

ただ、今回のプロジェクトに関しては、弊社の経理担当者が「これ(グリーンローン)にしましょう」って言ってきてくれたのがすごく嬉しくて……。銀行としては企業のESGやSDGsへの取り組みを積極的にサポートしていきたい、うちは環境負荷低減や省エネルギーに寄与する取組(機器導入)をしていきたい。その結果、それを評価した消費者がそういうバックボーンを持つまぐろに価値を見いだす、というのがこういったプロジェクトを進める上での最適解だと感じましたね。

マエカワの空気冷凍システム「PascalAir」を設置した三崎恵水産の屋上。日々のメンテナンス性や衛生性に配慮した配管の取り回しの設計や施工もマエカワの得意とするところ

中学校のまぐろ出張講義が決断の決め手

とはいえ、今まで使っていたものを大きく変えるのは難しいことだったと推察します。

石橋:三浦市内の中学校へ、まぐろの出張講義に行ったことが大きなあと押しになりました。生徒に環境問題の話をする中で、誰もフロンガスという言葉自体を知らないことに衝撃を受けたんです。フロンガスの問題といえばオゾン層の破壊ですが、そのことがどうやら教科書などに載っていないようなんです。世の中ではすでに解決された問題として扱われているからなんですね。生徒たちの社会科見学として現場を見せたりしているのに、そんな負の遺産ともいえるフロン系冷媒を「まだ使えるから」と会社で使い続けているのはおかしいだろうと考えました。

実際にマエカワとの計画が始まって、提案や設計、施工についてはいかがでしたか?

石橋:提案から実装まで、非常に満足しています。特に施工に関しては、導入機器をどこに置くのがベストなのかをとても親身になって検討いただいて、「PascalAir」の設置の際はもともとあった水槽設備の移設などかなり時間をかけて対応いただきました。また、温度管理のオペレーションにも助力いただきましたね。弊社としては「冷凍庫の温度を何℃にするか」は重要な課題でした。-60℃にするのか、
-50℃にするのか、設定温度によってエネルギー消費量が大きく変わってくるからです。

冷凍庫内の稼働状況に応じてどの温度が最適なのかをマエカワの担当者と検討を重ねて、学術的なエビデンスがないか調べたりしていただきながらすり合わせていきました。今は、「PascalAir」は平均-47℃を維持して運用しています。無駄なエネルギー消費をとにかく省きたかったので、そのあたりでもお力添えいただいて非常にありがたかったです。

「COPEL」は今、庫内温度-43℃で運転して貰っています。小型の冷蔵室では、1ヶ月程度の短期で出荷されるまぐろを保管しているのですが、やはり-35℃だと少し怖いんですよね。本当は大型倉庫と繋げて全て「PascalAir」を使って冷やしたかったけれど、立地の関係でそれはできなかった。その実、うちの小型冷蔵室サイズ用の冷凍機を検討すると代替フロン機を選択せざるを得ないんです。でも、それは「50年後も使える持続性のある機器に入れ替える」という今回のプロジェクトの目的にはそぐわなかった。だから、マエカワには設計仕様から外れますがチャレンジしていただいたんです。

マエカワとしても-40℃以下の設定は試行錯誤の連続。「COPEL」の限界を見極め、細かい調整を繰り返した結果、-43℃まで行き着いた、特殊なケース

本取り組みは、省エネルギー、脱フロンに寄与し、SDGs「7.すべてのエネルギーをみんなにそ してクリーンに」、「12.つくる責任つかう責任」に位置づけられる。

霜取りが必要なくなり冷却負荷も低下。人的負担も減って良いことづくめ

マエカワの機器の導入後、運用面で感じられていることはありますか?

石橋:「PascalAir」は出力が強いので、「よく冷えるな」と日々、実感しています。また、今までは週に1~2回、-50℃以下の過酷な環境下で高い位置にあるクーラーの霜取りをするという大変な作業があったのですが、導入してからは月に一度、屋上にあるダクトの霜取りと冷却塔の掃除をするくらいで良くなり、メンテナンス面の負担も大きく軽減できました。導入前は4人でオペレーションしていたのが、今では2人。従業員の負担も減り、冷却不良 による商品の劣化もなくなりました。導入後にできた時間で新たな戦略を考える余裕ができたことも助かりましたね。また「PascalAir」は、高圧ガス保安法の適用外なので、設備建設時の各種申請や保安責任者の常駐といった人的負担もなくなったので事業者としてはメリットばかりです。

マグロ貯蔵用の冷蔵倉庫内

環境面やエネルギー面での効果はいかがでしょうか?

石橋:出力が強力になり急速に温度を下げることができるようになったため、今までは常時、フル稼働させていたところを、状況に応じた制御で温度調整できるようになり電気使用量が大幅に削減できました。弊社は電気の契約プランを電気料金の単価が市場価格と連動して変動する「市場連動型」にしているので、電気料金が低い時間帯に最大出力(2台稼働)で冷やし込みをして蓄冷し、電気料金が高い時間帯は可能であれば1台止める、といった運用をしているんです。

電力使用の見える化システムを導入してモニタリングした結果、最大出力時の電力量の低減もでき、総使用電力を約10%削減することに成功しました。屋上で発電した電力を運用に組み込んでいることもあり、かなり電気代は下がっていますね。

タブレットで電力需給と電力価格をモニタリング。スタッフとデータを共有して冷凍庫の温度調整を行い、使用電力量の削減に努めている

機器納入後のマエカワのアフターフォローについてはいかがでしたか?

石橋:これはお世辞でもなんでもなく、完璧でした。温度管理のエビデンス提示もしかり、私たちのやり方に当意即妙に合わせて柔軟なアドバイスをもらえ、とても助かりました。よく会社にも来てもらって、システム変更の要望にも細かく対応いただいています。サポートの手厚さもマエカワの魅力の1つだと思いますね。「そのうちスマホから温度管理できるようなシステムを作ってほしい」なんて思っているのですが、さすがに欲張り過ぎかもしれません(笑)

「世界一のまぐろ屋」を目指し、変えられるところは変えていく

三崎恵水産の今後の展望について教えてください。

石橋:われわれがエネルギーについて考え始めた2011年は、まだエネルギー問題について世間の関心は薄かったと思いますが、現在ではSDGsに配慮したサステナブルな事業運営は喫緊の課題になっています。そんな中でも、われわれは常に10年先、20年先を見据えたまぐろ業界のトップランナーでありたいと思っています。

まだマエカワの機器を導入して間もないですが、しばらくしてデータが揃ったらどんどん外にも見せていきたいんですよね。環境問題は、私たちだけが取り組んでも解決されるものではありませんから、ある種オープンソース化をして、みんなが参照できるようにすれば、まぐろ業界、ひいては社会全体にいい効果が生まれると思っています。

自社サイトにも「世界一のまぐろ屋を目指す」と書かれていましたね。

石橋:そうですね。その1番は売上や規模のことではなく「先を動く」ということです。特に環境問題低減の分野については「世界一のまぐろ屋」であることを目指しています。ただ品質がいいだけではなく、省エネルギーや環境問題に取り組んでいる方法で生産されたものなら、お客様も私たちのまぐろに新たな付加価値を感じてくれると思うんです。それが世の中に広がっていけば、自ずとSDGs意識もどんどん高まるはずなので、これからもその実践は続けていきます。そして、50年先も旨いまぐろを届けますよ!

三崎恵水産のユニフォームには50年後を目指す意味で「+50」の文字が入る

最後に、マエカワとのプロジェクトについて感想をお聞かせください。

石橋:非常に満足しているので、これからもぜひご協力をお願いしたいですね。まぐろ業界は、まだまだ変えられるところがたくさんあります。例えば、人がハンドソー(のこぎり)で冷凍まぐろを切る高負荷な作業もその1つです。

工場見学に来た小学生から「すごいけど危なそう」と言われるような作業で、実際に人の手で行うだけに事故のリスクがつきまといます。もし、その作業を自動化できたら、従業員の負担も事故も減って、産業の担い手がもっと増えるかもしれませんよね。マエカワには鶏肉の自動脱骨技術なんかのノウハウもあるようですし、期待したいです。

まぐろ産業は、日本視点でいうと衰退産業かもしれませんが、グローバルで見ればかなりの成長産業で、弊社の売り上げも20~25%が海外です。コロナ禍でも、爆発的に伸びています。世界に日本のまぐろが広がっていく中で、やはり変えるべきところを変えなければ世界で戦えません。マエカワの機器はそういうときに大きな力になってくれると信じています。

三崎恵水産への納入機器

空気冷凍システム PascalAir(パスカルエア)

エアサイクルを用いた超低温領域(-50~-100℃)を創出する空気冷凍システム。オゾン層破壊係数、地球温暖化係数ともにゼロの空気が冷媒のため、地球環境負荷はまったくありません。 超低温領域(-50~-100℃)において、従来の蒸気圧縮式フロン冷凍システムより、最大50%の省エネルギー、CO₂排出量削減が可能です。

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