1.気候変動問題とは?
① 気候変動問題とは?
近年、世界的な平均気温の上昇に伴い、熱波や大雨、山火事、干ばつなどの気象災害が増加し、私たちの生活に大きな影響を与えています。
世界の気温は産業革命前(1850~1900年頃)と比べ、1.09℃上昇しましたが、このうち1.07℃は人間の経済活動により、温室効果ガスが排出されたことが原因とされています。このまま1.5℃まで上昇すると気象災害の発生率はさらに数倍に広がる可能性があるため、可能な限り食い止める必要があります。
② 温室効果ガス
温室効果ガス(GHG)とは、CO₂やメタン、代替フロンなど、大気中の熱を吸収する性質のあるガスのことです。
世界で約590億トン※のGHGが排出されているといわれ、日本では12.1億トンが排出されています。そのうち発電や燃焼プロセスで用いられる化石燃料の消費で排出されるCO₂が85%(エネルギー起源CO₂)を占めます。残りはメタンや一酸化炭素、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)で、排出量自体はCO₂に比べると少ないですが、温室効果ガスがCO₂の数十倍~数千倍もあるという特徴があります。
※59±6.6GtCO₂-eq
出典:経済産業省「IPCC第6次評価報告書 第Ⅲ作業部会報告書政策決定者向け要約 経産省暫定訳第2版(2022年2月)」より抜粋
202302IPCCWG3SPMsecondversion.pdf (meti.go.jp)
図1 2019年度の日本の温室効果ガス排出量
出典:国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ確報値(2022年4月15日)」を参考に作成
日本の温室効果ガス排出量データ|アーカイブ|国立環境研究所 (nies.go.jp)
③ 増加する代替フロン
日本のGHG総排出量は2014年度以降7年連続で減少していますが、ガス種別でみるとHFCsが増加傾向にあります。HFCsとは主に空調や冷蔵・冷凍庫の冷媒に使われるガスで、オゾン層を破壊する物質がない反面、地球温暖化効果が極めて高いという特徴があります。特定フロン(CFCやHCFC)から転換されてきたことを背景に近年急増しています(2013年:32.1百万トン→2019年:49.7百万トン)
製造現場が苦労して省エネルギーや化石燃料削減に取り組んだにもかかわらず、高い温室効果を有するHFCsへ転換したことで、GHG排出量が増加しています。
図2 GHGとHFCsの排出量比較
出典:国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ確報値(2022年4月15日)」を参考に作成
日本の温室効果ガス排出量データ|アーカイブ|国立環境研究所 (nies.go.jp)
2.温室効果ガスやフロンをめぐる世界や日本の動向
・パリ協定
2015年に採択された温室効果ガスの削減取り組みを定めた国際的な合意です。2020年以降の枠組として、すべての国連加盟国が批准しました。世界全体で気温上昇を2℃以下に抑え、さらに極力1.5℃以下に抑えることを目指しています。
・グラスゴー気候合意(COP26)
1.5℃目標追求の決意を確認しつつ、2030年に向けて野心的な気候変動対策を締結国に求める合意をしました。開発途上国への資金支援、石炭火力発電の逓減、排出量取引のルールブック化などの論点がまとめられました。
・カーボンニュートラル宣言
カーボンニュートラルとは排出する温室効果ガスを削減し、残りの排出量を吸収量やオフセットで相殺することで実質的に排出量ゼロを目指す取り組みです。2019年の気候行動サミットをきっかけに世界中の国、都市、企業が宣言し、日本も2020年に宣言しました。 2030年に温室効果ガスを46%削減(2013年比)、2050年にカーボンニュートラル達成に向け、電力や産業構造の変革に注力しはじめています。
・モントリオール議定書 キガリ改正(MOP28)
2016年に採択された環境負荷の高いHFC等の代替フロンを新たに規制対象とする国際協定です。先進国、開発途上国をグループに分けて削減スケジュールを規定し、日本は2036年までに基準値より85%の削減をしなければなりません。代表的なHFCにR404AやR410Aがあげられますが、これらは温暖化係数がCO₂の数千倍も高いものです。
・オゾン層保護法の改正
キガリ改正の履行に向けて、代替フロンの製造及び輸入を規制する等の措置が講じられました。2019年1月より施行され、代替フロンの生産量と消費量に基準限度が設定され、運用開始されています。
図3 オゾン層保護法の運用結果 国全体の消費量の限度の変化と足下の実績
出典:経済産業省「第18回 産業構造審議会 製造産業分科会 化学物質政策小委員会 フロン類等対策ワーキンググループ (2023年3月24日) 資料4」を参考に作成
・フロン排出抑制法の改正
フロン類の排出抑制を目的とし、業務用冷凍空調機器からのフロン回収義務など、フロン類のライフサイクル全般にわたる排出抑制対策を規定。2020年4月より施行され、違反に対する直接罰を導入するなど、廃棄時の回収率向上を目標に運用開始されています。
またフロン類使用製品のメーカーに対して、出荷する製品区分ごとに環境影響度(GWP)低減の目標を定める指定製品制度で、削減スケジュールに合わせた製品開発・普及が求められています。
指定製品の区分 | 現在使用されている 主な冷媒及びGWP |
環境影響度の 目標値 |
目標年度 | |
---|---|---|---|---|
家庭用エアコンディショナー(壁貫通型等を除く) | R410A(2090) R32 (675) |
750 | 2018 | |
店舗・オフィス用エアコンディショナー ①床置型等を除く、法定冷凍能力3トン未満のもの |
R410A(2090) R32 (675) |
750 | 2020 | |
店舗・オフィス用エアコンディショナー ②床置型等を除く、法定冷凍能力3トン以上のものであって、③~⑥を除くもの |
R410A(2090) | 750 | 2023 | |
店舗・オフィス用エアコンディショナー ③中央方式エアコンディショナーのうちターボ冷凍機を用いるもの |
R134a(1430) R245fa(1030) |
100 | 2025 | |
店舗・オフィス用エアコンディショナー ④中央方式エアコンディショナーのうち容積圧縮式冷凍機を用いるもの(空調用チリングユニット) |
R410A(2090) | 750 | 2027 | |
店舗・オフィス用エアコンディショナー ⑤ビル用マルチエアコンディショナー(新設及び冷媒配管一式の更新を伴うものに限り、冷暖同時運転型や寒冷地用等を除く) |
R410A(2090) | 750 | 2025 | |
店舗・オフィス用エアコンディショナー ⑥ ガスエンジンヒートポンプエアコ ンディショナー(新設及び冷媒配管一式の更新を伴うものに限り、冷暖同時運転型や寒冷地用等を除く) |
R410A(2090) | 750 | 2027 | |
店舗・オフィス用エアコンディショナー ⑦ 設備用エアコンディショナー(新設及び冷媒配管一式の更新を伴うものに限 り、電算機用、中温用、一体型などの特定用途対応機器などを除く) |
R410A(2090) | 750 | 2027 | |
自動車用エアコンディショナー(乗用自動車(定員11人以上のものを除く)に掲載されるものに限る) | R134a(1430) | 150 | 2023 | |
産業部門領域 | コンデンシングユニット及び定置式冷凍冷蔵ユニット(圧縮機の定格出力が1.5kW以下のもの等を除く) | R404A(3920) R410A(2090) R407C(1770) CO₂(1) |
1500 | 2025 |
中央方式冷凍冷蔵機器(有効容積が5万㎥以上の新設冷凍冷蔵倉庫向けに出荷されるものに限る) | R404A(3920) アンモニア(一桁) |
100 | 2019 |
図4 指定製品制度 機器・製品メーカーによる冷媒転換の促進
出典:経済産業省「指定製品製造業者等に対する規制 指定製品制度における現行の対象製品」から硬質ポリウレタンフォーム関係および噴霧器関係以外を抜粋し作成
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/ozone/furon_seihin_seizo.html
3.企業対応の後押し
・ESG投資の拡大
近年の投資手法としてESG投資※1が注目されており、その中でも特に気候変動問題に関連する投資先への注目度が高く、エネルギーや製造業分野を中心に環境に特化した投資が増えています。
日本においてもプライム市場上場企業のTCFD※2に基づいた情報開示やLCA※3算出の潮流を受け、企業としてどう対応していくかが、投資家や取引先から選ばれる基準となっていく見通しです。企業イメージの向上だけでなく、投資資金やビジネスチャンスの獲得に繋がることから環境対応へ取り組む動きが活発になってきています。
※1 Environment、Social、Governance(環境、社会、ガバナンス)
※2 Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)
※3 Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)
・自然冷媒への転換促進
キガリ改正の達成に向け、オゾン層保護法やフロン排出抑制法を通してフロン削減の包括的取り組みをすることに加え、自然冷媒を用いた冷凍機の転換も推進されています。冷凍冷蔵倉庫や食品製造工場、小売店舗において、自然冷媒冷凍機を導入にかかる費用の1/3を補助する事業※が行われています。
近年では、コールドチェーン全体での更なる脱フロン化・脱炭素化強化のために、省エネルギーや再生可能エネルギー活用に積極的に取り組む事業者に対して積極的な支援をするといった方針です。
※ 環境省 「自然冷媒普及促進サイト」
https://www.env.go.jp/earth/ozone/cn_naturalrefrigerant/
・マエカワの提案領域
製造現場のカーボンニュートラル達成に向けた取り組みの方向性は、①省エネルギーの強化、②化石エネルギー使用削減、③再生可能エネルギー導入、④HFCsなどの非エネルギー起源CO₂削減の大きく4つが考えられます。このすべてに対して、マエカワは多種多様な機器とエンジニアリングを組み合わせることで、最大限応えることができます。
図5 マエカワの提案領域
引用・参考資料など
- 国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ確報値」
日本の温室効果ガス排出量データ|アーカイブ|国立環境研究所 (nies.go.jp)
- 環境省「自然冷媒普及促進サイト」
https://www.env.go.jp/earth/ozone/cn_naturalrefrigerant/
- 閣議決定「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」
- 環境省「脱炭素ポータル」