Mayekawa

海の恵みを守りたい。マグロ業を営む「シズオカコールドストレージ」が、国内初の挑戦。
超低温用冷蔵庫に「PascalAir(パスカルエア)」×「デマンドレスポンス」を導入し、水産業の環境負荷低減に新たな道を。

株式会社シズオカコールドストレージ様は、日本有数のマグロ水揚げ地である焼津で長年マグロ業を営まれてきたマルハ長谷川水産とケーフーズの2社が、マグロ保管用冷蔵倉庫の不足という課題を目の当たりにし、それを解消すべく2022年6月に新たに立ち上げた会社です。

保管されている冷凍マグロ

同社は、マグロの鮮度とカーボンニュートラルの両立を目指し、オゾン層破壊係数(ODP)、地球温暖化係数(GWP)がゼロで地球にやさしい空気冷凍システム「PascalAir(パスカルエア)」を導入するとともに、2025年7月より国内で初めて超低温用冷蔵庫を活用した需給調整市場向けデマンドレスポンス(以下「DR」)を開始しました。今回はその経緯や想いについて、代表取締役社長の長谷川幸雄様にお話を伺いました。

お話を伺ったメンバー

  • 長谷川 幸雄(はせがわ・ゆきお)さん

    株式会社 シズオカコールドストレージ
    代表取締役社長

冷蔵倉庫事業参入の背景と、前川製作所との出会い

マグロの保管事業に乗り出した経緯を教えてください。

長谷川:焼津は日本屈指のマグロ水揚げ地である一方、保管する冷蔵庫は慢性的に不足し、マグロの冷凍船が港に長期間滞留したり、保管先が見つからずに物流が滞ったりすることが度々ありました。長年、仲卸を営むなかでこうした課題を痛感しており、「ビジネスチャンスになるのでは?」と捉え、新たに冷蔵倉庫事業に乗り出すことを決意しました。

マエカワを知った経緯を教えてください。

長谷川:冷蔵倉庫事業は初めての挑戦だったので、土地探し、建築設計、どのような設備を選ぶべきか多くの関係者と相談をしながら進めていきました。そんななか「PascalAir(パスカルエア)」を導入している冷蔵倉庫会社様から、マエカワを紹介いただいたのがきっかけです。

環境にやさしい冷凍機メーカーであることに加え、導入機器は省エネルギー性能も高く電気代削減につながったことや、アフターメンテナンスが丁寧だという話を聞き、関心を持ちました。

最終的にマエカワの提案を採用した理由をお聞かせください。

長谷川:計画当初は投資回収のスピードから、フロン設備での導入を検討していましたが、長年マグロ事業に携わっているなかで、「環境問題は無視できない」という想いがありました。

マグロは冬に向けて脂肪を蓄えるため、海水温が低いほど脂がのって美味しくなる傾向にあります。地球温暖化で海面温度が上昇していくと、漁獲量の減少や漁場の不安定化を招きますし、エサとなる小魚も減少するので負のスパイラルです。20~30年前と比べて、同じ漁場で獲れるマグロの品質が落ちていると実感しています。

こうした現場感覚に加え、ちょうど計画していたタイミングで、菅元総理が「カーボンニュートラル宣言」を発表したことも後押しになりました。「目先のコストでフロン設備を選んでも、数年後には規制で使えなくなるかもしれない。それなら最初から環境に優しい選択をしたい」と考え、マエカワの「PascalAir(パスカルエア)」導入を決断しました。

また、自然冷媒を使った冷凍機の導入にあたり、環境省の「コールドチェーンを支える冷凍冷蔵機器の脱フロン・脱炭素化推進事業補助金」の適用も可能だと知り、申請したところ、採択されたので、非常に助かりました。

マエカワの空気冷凍システム「PascalAir(パスカルエア)」を設置したシズオカコールドストレージの屋上。計4基導入いただいた。

冷蔵倉庫稼働から1年。「省エネルギー」と「使いやすさ」で実感した導入効果。

実際に導入・稼働してみて感じていることについてお聞かせください

長谷川:本稼働から1年が経過しましたが、現在まで大きなトラブルもなく順調に稼働できています。「PascalAir(パスカルエア)」は配管が少なく構造がシンプルで、庫内にクーラーも設置されていません。そのため点検や修理、日常的な霜取りといった作業が少なく、現場からも「扱いやすい」との声が上がっています。冷却性能も安定しており庫内温度がしっかり保たれているため、安心してマグロを保管できます。また電気料金も当初想定より抑えられており、省エネルギー性能の高さを実感しています。

システム概要図。メンテナンス性に配慮したシンプルな配管設計・施工はマエカワの得意とするところ

併せて採用いただいた、Thermoshutter(サーモシャッター)の導入効果についてお聞かせください。

長谷川:当初は想定していなかったのですが、導入したことで現場の作業効率が格段に高くなり、現場社員からも「非常に助かっている」と好評です。

通常、冷気の流出を防ぐために冷蔵庫と荷捌き場の間には前室を設け、鉄製の扉を2枚設置します。フォークリフトの出入り時には、一方の扉を閉めてから次を開ける必要があり、作業効率が悪くなるだけでなく、リフトの停止に伴うスリップで扉にぶつけてしまうリスクもありました。

今回、Thermoshutter(サーモシャッター)の導入により前室をなくし、扉を1枚にする提案を採用したことで、リフトが前室で待つことなく、スムーズに出入りできるようになりました。また、冷蔵庫からの冷気の流出も最小限に抑えてくれるので、庫内温度の安定にも貢献してくれています。

センサーで自動開閉するシートシャッター1枚+鉄扉1枚。フォークリフトで出入りがスムーズに。

環境負荷低減に向けた新たな挑戦。超低温領域で国内初となる需給調整市場向けのDR開始

DRの導入経緯について教えてください。

長谷川:正直「デマンドレスポンス(DR)」という言葉も知らないところからのスタートでした。補助金の申請を進めていた際にマエカワから提案いただいたのがきっかけです。最初は「効果があるのか?」と半信半疑でしたが、中部電力ミライズ様とともに、DRの仕組みやランニングコスト低減メリット、さらには環境への貢献性について丁寧に説明いただき、「やってみよう」と判断しました。PascalAir(パスカルエア)を用いた超低温領域において国内初の取り組みですが、水産業界全体の環境負荷低減に向けた新たな道を拓くものになれば嬉しいです。

制御盤。DR実施中の様子。

今後の展望とマエカワへの期待

長谷川:引き続き、冷蔵庫不足という課題はあるので、新たな冷蔵庫建設には関心をもっています。ただ、建築コストやエネルギー価格高騰を考えると、なかなかすぐには難しいと感じています。

とはいえ、養殖マグロや他の超低温保管品目のニーズもあるため、環境負荷が少なく効率の良い設備は、今後ますます重要になると思います。マエカワには今後もユーザー視点での柔軟な提案やサポートをお願いしたいですし、DRのような先進的な取り組みを一緒に広げていければと思います。

左:前川製作所 焼津営業所所長 松永
中央:シズオカコールドストレージ 代表取締役社長 長谷川さん
右:中部電力ミライズ 江原さん

冷凍マグロ倉庫を活用した、DRの舞台裏とは

今回、マエカワだけでは成り立たなかった「需給調整市場向けのDR対応」を、アグリゲーターの立場として共に進めてくださったのが、中部電力ミライズ株式会社です。営業を担当された江原様に、本件の振り返りと今後のビジネスプランの展望についてお話を伺いました。

お話を伺ったメンバー

  • 江原 侑希(えはら・ゆうき)さん

    中部電力ミライズ 株式会社
    サステナブル社会推進本部
    サービス・プラットフォーム開発部

デマンドレスポンスの概要と今回の背景についてお聞かせください。

江原:デマンドレスポンス(DR)とは、電力需要が高まった際に消費者側で電力使用量を抑制・調整する仕組みです。これにより、電力供給がひっ迫する状況を回避し、電力の安定供給や再生可能エネルギーの活用促進に貢献します。今回の取り組みでは、需給調整市場における「三次調整力②」に、冷凍マグロ倉庫から電力を供出する国内初の事例となりました。補助金制度を活用して新設する冷蔵庫に、DR対応が補助要件だったことから、当社にご相談いただいたのがきっかけでした。
導入された冷凍機は−50℃以下を維持する仕様で、一定時間冷凍機の出力を調整してもマグロが保冷剤の役割を果たし、庫内温度が安定します。こうした特性を活かし、三社で連携して需給調整市場への参加が実現しました。

今回のプロジェクトを振り返って印象に残ったことや実感についてお聞かせください。

江原:他の市場と比べ高い精度が求められる需給調整市場への挑戦をご提案したのは弊社ですが、正直、こんなにも上手く実現できたことに驚いております。三次調整力②へ参入するにあたっては、厳しい商品要件をクリアしつつ、冷蔵庫の温度を維持するという課題を解決する必要がありました。そのため、冷蔵庫の竣工前から完工後にかけて、マエカワ様と何度も議論しながら、仕組みを構築していきました。
初めてのDR運転は正直ドキドキしながら指令を送信しましたが、なんの不具合もなく、冷凍機が消費電力を削減していく様子を現地で確認でき、「さすがはマエカワだ」と改めて感服しました。

今後のDRや、マエカワとの協業について展望をお聞かせください。

江原:今回の知見は、冷凍マグロ倉庫に限らず、他の冷凍冷蔵設備にも展開可能と考えています。ただし、温度条件や冷凍機の特性は施設ごとに異なるため、今後も一つひとつ丁寧に検証していく方針です。
マエカワ様とはDRにおいて初めての協業でしたが、技術力や対応力ともに非常に頼りになりました。今後も信頼関係を深めながら、多くの事業者様にDRの意義と可能性を伝えていきたいと思います。電力の需給調整に貢献し、脱炭素化に向けた負荷側の変革をさらに進めていきます。

シズオカコールドストレージへの納入機器

空気冷凍システム PascalAir(パスカルエア)

エアサイクルを用いた超低温領域(-50~-100℃)を創出する空気冷凍システム。オゾン層破壊係数(ODP)、地球温暖化係数(GWP)ともにゼロの空気が冷媒のため、地球環境負荷はまったくありません。 超低温領域(-50~-100℃)において、従来の蒸気圧縮式フロン冷凍システムより、最大50%の省エネルギー、CO₂排出量削減が可能です。

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