Mayekawa
こだわりの技による酒造りを旨とする「宝酒造 ⽩壁蔵」。低温・低湿度のデシカント空調システム環境下で⾏われる「上槽」で清酒の品質を向上
2025.02.26

宝酒造株式会社様の清酒製造工場である⽩壁蔵では、昔ながらの⼿造りによる酒造りと、⼿造りの原理を再現した新しい設備による、こだわりの酒造りが⾏われています。
日本古来の伝統製法「生酛造り(きもとづくり)」で丁寧に仕込まれた、「松竹梅 白壁蔵 生酛純米」や数量限定・ルート限定販売の「然土(ねんど)」のほか、低アルコールのスパークリング日本酒「澪」といった、同社のブランドを支える各種製品を製造している生産ライン内で、マエカワのノンフロン熱風ヒートポンプエコシロッコを取り入れたデシカント空調システムが稼働しています。

白壁蔵で生産されている清酒(一部)
今回は、清酒の製造工程である、発酵を終えた醪(もろみ)を搾って原酒と酒粕に分ける「上槽」を行う圧搾室及び上槽後にでた酒粕の保管庫用の空調設備として、デシカント空調システムご採用頂いた経緯や導入による効果について、工場長の山内様と生産課課長の井上様にお話を伺いました。
お話を伺ったメンバー
-
山内 政宗(やまうち・まさむね)さん
宝酒造株式会社 白壁蔵
工場長 -
井上 智博(いのうえ・ともひろ)さん
宝酒造株式会社 白壁蔵
生産課
課長
製品の品質を保つために主流システムからの切替を検討
今回、圧搾室の空調システムとして従来の方式から、ノンフロン熱風ヒートポンプエコシロッコを取り入れたデシカント空調システムへと更新するに至った経緯についてお聞かせください。
山内:圧搾室で行われる「上槽」は、アルコール発酵している醪を絞りながら布で濾して「原酒」と「酒粕」に分ける工程です。白壁蔵ではフィルタープレス式の圧搾機に一晩かけて醪を搾り、酒粕を回収した後に機器と場内の洗浄を行っています。その度に機器や床は水浸しの状態になりますし、洗浄後に残ってしまった水分からはカビや雑菌が発生しやすくなり、酒の品質に悪影響を与えかねません。それらを防ぐために室内は常に除湿を行い、ドライな環境を保ちたいと考えていました。
旧システムは、塩化リチウムを使った「湿式液体吸収式」といわれる、多くの酒造メーカーで使用されている方式のものでした。業界では今もなお主流のシステムなのですが、当社の場合、20年以上の使用による老朽化で冷却・除湿の能力が落ちていたのに加え、そもそも除湿ではなく調湿がメイン機能のシステムだったこともあり、なかなか思うような環境が作れていませんでした。メンテナンスの費用も増加する一方でした。それもあって、より確実な除湿が行えて、理想的な環境が作り出せるデシカント空調システムへの入替を検討することになりました。

見学通路で圧搾室の説明をしてくださる山内工場長
圧搾室にデシカント空調システムを導入したのは日本国内では御社が初だと聴いています。業界ではまだ導入実績のないシステムを検討頂けたのはどういった経緯からでしょうか?
山内:当社のアメリカの工場にはマエカワさんの冷凍機が3台入っていまして、10年近く前に私がアメリカの工場に赴任していた時期に、MAYEKAWA U.S.A.の駐在員の方からデシカントという技術を紹介して頂いたことがあったんです。その時は、設計までやって頂きながら最終的にコストの問題で折り合わず、導入を見送っていたのですが、今回、空調設備入替の話が出て「効果的に室内の除湿が出来る方法は何だ」となったときに、そのことを思い出して、まずマエカワさんに連絡させて頂いたんです。
井上:私は前の工場(伏見工場)にいたときに、今回と同じ目的でデシカント空調の検討をしたことがありました。かなりいいものだなと感じたので、個人的には導入したいと思っていました。が、やはり既存の空調システムから置き換えるとなるとコストが合わないこともあり、実現には至りませんでした。そうしましたら今回、山内から「デシカントって知っているか?」と訊かれまして。知っているし以前検討したこともあるんですが、コストが合わなかったんですよって話をして、そこを含めてマエカワさんに相談をしてみようということになって、実際にお話しさせて頂いたところ、熱風ヒートポンプ(エコシロッコ)を入れたシステムを提案して頂けました。再生熱源にヒートポンプを使うことでコストがぐっと下がりましたから、これでいけそうだね、となりました。

導入設備イメージフロー
業界内で主流とされているシステムから切り替えることに不安はありませんでしたか?
井上:不安はありませんでした。どのくらいの水分を取りたいのかとか、我々は明確な数字を持っていたわけではなかったのに、その曖昧なイメージから色々な検証をしたうえで、ちゃんと計算して具現化して頂けましたし。
山内:前例がないぶん、こちらの要求通りの性能(湿度50%以下、室内温度15℃)を常にキープできるよう、システム設計に関しては相当シビアに計算して頂きました。製品の品質にも関わることなのでそこは譲れなくて。1ヶ月以上発酵させていい醪が出来た、となっても、搾るところの環境が悪ければ全て台無しです。それは絶対に避けたかった。より良い環境で酒造りをしたいという思いの方が強かったように思います。
期待通りの性能で順調稼働。思わぬ波及効果も。
実際に導入してみての効果などは如何でしょうか?
山内:洗浄時に水を使用しても、翌日にはカラカラに乾いている。塩化リチウムを使った湿式液体吸収式の調湿では実現できなかった低温低湿な環境が保たれており、天井の水滴や圧搾機フィルターの黒ずみも激減しています。錆も防げるので機器トラブルも減るのではないかと期待しています。意外だったのは、現場の従業員の意識が変わったことでしょうか。我々の仕事の8割近くが、結局洗浄作業なんです。壁やら機器やらに生えたカビをとにかく毎日洗いつづけなくちゃならなくて。ただ、以前は洗っても洗ってもカビが生えてくるからキリがなくて、無力感を覚える従業員もいたようです。ですが、システムを入れ替えたことで、1回洗えば壁も天井も機器も乾いた綺麗な状態が長く続くことがわかって、作業のモチベーションが上がったみたいです。
井上:ここまでいい設備が入ったんだったら、次は自分たちがちゃんとやる番だ、という風に思ってくれているみたいです。僕たちが指示をする前に、時間に余裕が出来たからと言って自主的に洗浄箇所を見つけて作業してくれるようになっています。そういったモチべーションの向上に繋がるような機器はこれまで、当社にはありませんでした。
メンテナンスや操作性と言った部分については如何でしょうか?
井上:初めて導入した設備なので、正直、良く分からないエラーが出て戸惑うことはあります。設置場所が高速道路の近くの大きな道路なので、車通りが多く、排気でフィルターが詰まりやすい、などは実際に入れてみて初めて分かったところでした。また、冬場の運転時に熱源水(冷水)の温度がかなり下がり、凍結を防ぐためにヒートポンプが100%の能力を発揮できなくなったことがあったのですが、後日、その改善策として責任施工でブライン(不凍液)方式に変更して頂けるなど、単なるメーカーではできない、システム設計を含めた提案を貰えるのが他の会社にはない点だと感じますし、そういった対応がとても有難いです。

導入させて頂いたデシカント空調システム一式
省エネルギーやランニングコストの軽減については感じていらっしゃいますか?
井上:ヒートポンプなので、当然電気代は上がりましたけれども、蒸気の使用量は確実に減りました。ボイラーのガス代まで細かく確認したわけではないですが、同じことを蒸気ヒーターでやればもっとエネルギーがかかるはずなので。
山内:室内の低温除湿環境が問題なく維持できているということは空調機がしっかり機能しているということですし、生産現場が本来のあるべき姿に戻ったということだと思います。

質のいい日本酒をこれからも手頃な価格で楽しみ続けて頂くために
清酒大手メーカーとして宝酒造白壁蔵様がお考えの展望や業界の未来についてお聞かせください
山内:今後人口が減少していくことで、日本酒を飲む人も減っていくことを考えると、これからは製品イメージから変えたいと考えています。我々のような(大手と言われる)メーカーが造るお酒は「安酒」だと思われがちなので、最近、戦略の一つとして販売を開始したのが、「松竹梅」シリーズの中で最もハイエンドな日本酒、松竹梅白壁蔵『然土(ねんど)』です。
限定販売のプレミア感に加え、口にして「これ、美味しいね、どこのお酒なの?」って、ラベルを見たときに初めてそれが大手酒造メーカーの製品だと知って、当社に対するイメージが変わる、そんなことが起こればいいなと思っています。
松竹梅白壁蔵『然土』ブランドサイト
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/nend/

宝酒造株式会社白壁蔵
今回のプロジェクトを振り返って、また、今後の前川製作所に期待することについてお聞かせ願います。
井上:昔は冬の間しか出来なかった酒造りが通年でできるようになったのは、冷凍技術の発展のおかげです。今、世の中的には熟成よりはフレッシュなお酒の方が受けている風潮があり、どこのメーカーもそちらに力を入れ始めているのですが、そうなると冷貯蔵の技術が必要になって来ます。マエカワさんのご専門だと思うので、今後そちらの方でも何かご提案等を頂けると有り難いです。
山内:コロナ禍があって計画を延期したり、初めてのシステムだということや金額の問題…やはり安いものではないので…やその他色んな課題があり、社内調整に時間がかかったりもしましたが、結局は入れて良かったという話を社内でもずっとしています。当社から轟産業さんに元請けとして工事をお願いし、マエカワさんは機器とシステムの設計と試運転を担当するという形で成立したプロジェクトとなりましたが、両者にとってお互いの強みを活かしつつ、今後も続けていける新たなビジネスモデルが構築出来たとお訊きしています。そういった点でも良かったように思います。
工場内の他の湿式液体吸収式設備についてもデシカント空調システムに順次入れ替えたいと考えています。轟産業さんと連携しながら引き続きのサポートをお願い出来ればと思います。
マエカワの姿勢に感銘。課題解決のシステム導入提案をこれからも共に
今回、マエカワだけでは成り立たなかった本プロジェクトを、「ユーザー」と「メーカー」の仲立ちとなる元請の立場で共に進めてくださったのが、工業技術専門商社である轟産業株式会社様です。
同社京都支店の寺﨑支店長にも本件の振り返りと今後の協業ビジネスプランの展望についてお話を伺いました。
お話を伺ったメンバー
-
寺﨑 淳平(てらさき・じゅんぺい)さん
轟産業株式会社 京都支店
支店長
本プロジェクトが御社との協業となった経緯や背景についてお伺いできますでしょうか。
寺﨑:アメリカから帰国されたばかりの山内工場長(当時は課長)からマエカワ様のシステム設計でデシカント空調システムの導入検討を始めているというお話を伺ったのが最初です。各種生産機器の納入で日頃よりお世話になっている宝酒造様と、弊社と関係の深いマエカワ様の案件でしたので、すぐに導入の際には是非、設置施工をお任せ頂けないかとお願いさせて頂きました。とはいうものの、最初はデシカント空調がどのようなシステムなのかまでは良く分かっておらず・・・。打合せを重ねて装置の理解が深まると同時に業界初の導入という事も分かって、これは大変なプロジェクトだぞと後から大きなプレッシャーを受けることになりました(笑)
今回のプロジェクトを振り返って印象に残ったことや終えてみての実感についてお聞かせください。
寺﨑:新設ではなく、既設システムからの入替でしたので宝酒造様の製造停止期間を1ヶ月以内に納める必要があり、工期短縮が大きなテーマとなりました。既設システム撤去からデシカント空調システムの設置・配管/ダクト/電気工事と日程的にかなりタイトな工事となりましたが、マエカワ様の設計の方から手厚いフォロー・助言を頂き、無事に工期内で完工することが出来ました。「装置を元請に渡して終わり」ではないマエカワ様の姿勢に非常に感銘を受けたのを覚えています。
また、緊張しながらの初起動の際、水を撒いて濡らした床がみるみるうちに乾くのを見た時の感動と安堵はいまだに忘れられません。
その後も、現在まで宝酒造様のたくさんの方々に喜びや感謝の声をかけて頂き、我々にとっても非常に印象に残る大きなプロジェクトとなりました。
今後のマエカワとの協業について展望などをお聞かせください
寺﨑:宝酒造様内白壁蔵他空調の入替はもちろんですが、他工場様にも同システムのPRを始めさせて頂いています。今回は「上槽」工程でしたが、これほどの低温低湿環境を作り出せるのであれば、清酒製造以外の他工程でも良い導入提案が出来るのではないかと考えていますので、今後も実績を元とした設備施工・工期・予算を含めた総合的な提案を行っていければと思っています。
商社という立場ではありますが、当システムの酒造業界スタンダード化と良質な酒造りの環境の提案に少しでも尽力出来たらと考えております。
全国にいる弊社の営業マンがお客様の困り事・ニーズを受けて、マエカワ様の豊富な技術・ノウハウ・製品群の力を借りて課題解決のシステムを提案導入していく。
まさに今回のような事例をこれから、全国へ横展開させていければと考えております。
宝酒造株式会社への納入機器
ノンフロン 熱風ヒートポンプ エコシロッコ
「エコシロッコ」は塗装乾燥ブース、乾燥炉、乾燥機、番重洗浄機、スプレードライヤー、加熱室、減量装置、除湿用デシカントローター再生用の一過性熱風供給設備に最適な機器です。ボイラーやバーナーを用いた従来の方式よりも50%の省エネルギーを実現すると同時に冷水供給も可能です。加熱後の冷却用冷水、工業用水、各種冷却水、除湿用冷水、蒸気ドレンが存在すれば、それらから採熱することで既存チラーの動力削減や夏場の冷却水温度上昇防止、熱のリユースなどが可能となります。

全国54拠点でお客様のそばでサポート
お客様がお困りの際にすぐに対応できるよう、
マエカワのサービス拠点は全国各地に広がっています。
お客様ごとのサービス履歴をお客様に一番近い拠点で保管・管理し、
お客様のプラントの特徴を各サービスマンが共有しています。
